朝日新聞デジタルに掲載されました

「お疲れ様」について、朝日新聞社より、取材を受けました。

http://www.asahi.com/special/kotoba/danwa/SDI201511213201.html

現代のビジネスマナーは?

あいさつ言葉の適否が取りざたされるのは、主にビジネスの現場。同じ会社の中だけでなく取引先や客などさまざまな立場の人とあいさつする必要がある人が頭を悩ませています。それならばビジネス現場のあいさつの「プロ」に聞いてみようと、日本サービスマナー協会の認定講師・五十嵐由美子さんをたずねました。五十嵐さんは、地方局のアナウンサーだったキャリアを生かして、現在ではラジオ番組のパーソナリティーを務めるほか、企業でのマナー研修の講師も請け負っています。研修では、お辞儀の仕方や名刺の渡し方など、言葉だけでなく動作も踏まえてビジネスマナーの基本を教えます。

「上司には何とあいさつするように教えていますか?」と聞いてみました。

「上司には『お疲れ様』を使うのが適切だと教えています」との答え。「お疲れ様」は一緒に働いている「仲間意識」の醸成ができる言葉であり、便利な言葉だそうです。ただ、言葉の使い方だけでなく、口調や礼の仕方ひとつでも敬意は伝わるというのが五十嵐さんの考えだそうです。

あいさつは、
「あ」かるく 元気で
「い」つでも
「さ」きに……部下からあいさつがない!と怒るのではなく自分から率先して
「つ」づけて……あいさつの後に何か一言つづけると円滑なコミュニケーションになる

と説明すると、企業の社長や管理職から「部下からあいさつがないと不機嫌になっていたかも」と言われることもあるそうです。

ただ五十嵐さん自身がマナーを学ぼうとしたのは、敬語に自信がなく、仕事をしていてもなんとなく不安が態度に出てしまうと悩んだのがきっかけ。一度学ぶと落ち着いて相手のことを考えられるようになって、気遣えるようになったといいます。「マナーは気持ちよく仕事するための環境作りの道具にすぎません。怖がらずにどんどんあいさつした方が、誰にとっても良いはずです」と話していました。

■上から目線が悩みの原因?

目上に対して無礼か無礼でないかという議論が生じるのは、敬語表現が複雑であることが大きな原因だと思います。身分制度がなくなって久しく、「友達親子」などという言葉ができたように、人と人の関係が対等にとらえられることが多くなりました。そんななか、自慢話や、「私にはわかっているけど、あなたにはわかりますか?」と聞こえるような物言いが、見下していると思われて、いやがられることがあります。日本語を使いこなそうと努力しても、人によってとらえ方が異なる言葉もあったりすると怖いと思ってしまいます。

「目上の者をねぎらうのは無礼だ」と考える理由は、「目上の人の気持ちをおもんぱかれると思うこと自体が失礼だ」「お疲れ様と言われるのは『自分が疲れているように見える』と指摘されているようで不愉快だ」と実にさまざまなで、これが「正しい」という答えはなさそうです。

江戸から明治を経て現代になるまでに、ご苦労様とお疲れ様の地位が変化したように、今後もあいさつの流行が変わるかもしれません。筆者も後輩に「ご苦労様」と言われたとしても、「マナーしらずだなあ」と思わずに、率先してあいさつすることをこころがけたいと思います。

(加藤順子)